その間に長い散歩

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着物ってすごいな

すみれは、両手に持った帯をぎりぎりと引き絞っている。高志はお腹を帯に締めあげられる苦しさに、顔を赤くしたり青くしたりした。
「うわーっ、お、大堀さん……お、帯……く、苦しいですーっ」
「苦しいぐらいにきつく結んでおかないと、帯がゆるんで大変なことになっちゃうわ。舞台の上で帯がほどけちゃイヤでしょう」
「そ、それはイヤです……」
「じゃあ、我慢するのね」
「うぅぐおーっ」
「高志ってば、下品だわ」
 優亜があきれてため息をついた。
「でもでもっ、苦しいんだよーっ」
「男の子って、すぐに弱音を叶くのよね……私なんか、毎日着物ですごしているのに。……はい。帯が結べたわ。次は帯揚《おびあ》げね」
「ま、まだ、巻き付けるんですか?」
「ええ。帯揚げの次は帯留《おびど》めよ」
「うえーっ」
 高志は悲鳴をあげた、
 お腹のあたりを腰紐だの帯だの帯揚げだの帯留めだの、何本の紐で巻き付けられて、息をするのも苦しいぐらいになってしまった。
 すみれは薄い笑いを顔に張り付けたままで、いろんな紐を力いっぱい引き絞り、高志に悲鳴をあげさせている。
 ほっそりして力のなさそうな彼女の、憎しみさえ感じるほどの熱心さに恐怖を覚えたときのことだった。
「ハイ、できたわ」
 軽く背中を叩かれた。正確には叩いているのではなく、帯の上をぽんぽんして、結び具合を確かめているのである。
「帯、苦しい?」
「それほどでも……」
 着付けの最中はあんなに苦しかったのに、今はそれほどではない。
 きりりと帯を結ばれたことによって、背中が伸びた気分になった。
 すみれがいつも背筋を伸ばしているのが納得できる。
「うわーっ。綺麗ねー。着物ってすごいなぁ。身長とか性別とか体型とか関係なしに、誰だって着れちゃうのね」
 優亜がしきりに感心しているが、鏡がないのでわからない。
 だが、綺麗だと言われると胸の奥がムズ痒くなってくる。うれしいような困ったような、妙な気持ちだ。甘酸っぱい陶酔を帯びたそれは、高志の目をくらませた。
 だが、すみれは、高志を感慨に耽《ふけ》らせてはくれなかった。
「化粧、するわよ。こっち座って。目をつぶって」
 すみれは高志を椅子に座らせ、顔に化粧水を含ませたコットンをパタパタする。
 ひんやりした指先が繊細が動く感触に、あのムズ痒いような甘酸っぱさがじんわりと広がっていく。
「大堀さん。慣れてますねー。化粧、よくするんですか?」
「初生けとか、イベントのときは化粧しますよ」
「ああ、そりゃそうでしょうね。若宗匠ですもん」
「桂くんって、少年なのに肌が綺麗なのね。つるつるで感心しちゃう」
「私が高志にパックしたんです」
「あらそう? それで肌が綺麗なのね。でも、キメが細かいのよ。これは生まれつきね。化粧映えする肌だわ」
 高志は目を閉じて、すみれの指先が肌の下で動く感触を覚えていた。ファンデーションを伸ばし、アイシャドーを伸ばし、マスカラをつけ、細い紅筆《べにふで》が唇をなぞって口紅をつける。
「エクステンションもつけますからじっとして」
 ——エクス? 何だろう?
 髪が引っ張られる感じがし、頭が重くなっていく。
「エクステなんかつけたら、時間かかるんじゃないですか?」
「だいじょうぶよ。すぐだから」
 すみれと優亜がなごやかに話している。



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